私の墓

墓場まで持っていきたいが、いま吐き出したい自分の思いと過去

そこに生える

「あ、村山が。」

そう言って、私の顔に手をそっと近づける妻。

 

ふと、中高年の鼻の穴を見ると、控えめとは言えない格好で毛が主張していることがある。

これが高齢者となると耳の毛までもが激しく主張してくる方もある。

体毛は体の部位を守るために生えていると耳にしたことがあるが、そんなにはりきって守らなくてもと感じる。

鼻毛は排気ガスやチリなどから守るためと、まだ納得がいくのだが、耳毛は一体、なにから守ろうと頑張ってくれているのか、甚だ疑問ではある。

 

そんな私も今では立派に中高年の仲間入りを果たし、髪の毛に白いものが混じるようになった。

「あの人は頭にペタペタいろんなもの塗ってたから剥げたんだ。」

と、母から父が30代前半で禿げたという話を聞かされていたため、いつ「くる」だろうかと怯えていたが、幸いに毛根の頑張りによって、何とか私の頭には髪が残っている。

 

しかし、加齢による変化は他にも現れるのだ。

気がつかないうちに、そっと。

 

そっと、私の顔に手を近づける妻。

ブチッ。

妻の手には1本の毛。

それは、およそ眉毛とは思えない長さの毛だった。

「村山首相か。」

とてつもない長さの眉毛を携えた首相のように、私の眉も順調に歳を重ねているのだ。

 

一体、未来の姿は一体どうなるのか。

欲しいところには髪が残らず、守つてもらう必要のないところには毛が生え、歯は抜け、足腰が弱り、誰かの手助けがないと生活できない、所謂、一般的な高齢者像を思い浮かべる。

 

せめて鼻の穴を覗かれても、耳の穴を見られても、恥ずかしくないように身なりには気をつけていきたい。

そして、息を引き取ってエンゼルケアを受けるときには、

「他のおじいさんと違って、鼻毛も耳毛もなくて、とてもきれいね。」

と言われたい。

 

そんな些細な私の願い。